夏は植物の茂り具合といひ、發育狀態といひ、一體に濃厚緻密、水も洩らさぬやうに見えるが、造󠄁化の夏の仕事は、何處となく大まかで、花の色彩でも、積極的に、强烈な赤だとか、藍だとか、紫だとかいふ種類が多い代りに、割合に無造󠄁作に思はれる、秋は人間の頭に、淡白、寂寥、消極、悲哀といふやうな槪念が宿つてゐるので、畵家などでも淡梢疎葉で、秋といつた感じを、無造󠄁作に現はさうとしてゐるが、一枚の葉一個の花に就いて比較すると、反對に秋の方が、緻密な作がしてある、有り觸れた花を例にしてみると、薊の花を掌に取つてみたまへ、尖つた毛彫より細かくて、柔かくて、一錐の瓣が無數に集合したときの色具合といひ、托葉の光澤の鮮やかさといひ、よくもかう細緻な仕事が出來たものだと、感嘆される、併し少しく離れて見ると、薊の花などは、汚さい、褪めかゝつた紅の塊のやうにしか見えぬ。

via konjaku

Source: dl.ndl.go.jp/pid/889065/1/113

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